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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第19章 響箭の軍配 弐



そんな中で大名と清秀が交わし合っていた言葉を耳にし、武将はつい眉根を顰めた。確かに小隊の者達からそのような話を耳にしていたが、果たしてそれは真実であろうか。
そして、雨でも鉄砲衆が使えるかもしれないと匂わす男の心理が理解出来ず、つい厳しい目線を清秀へ向けた。

「雨がいつまでも続くとは限りません。このような雨でも、明日には晴れているやも」
「確かに山の天気は変わりやすい。しかし火薬が湿気ては使い物にならぬのではないか?」
「……まあ、そうではありますが、ね」

地図上における山の箇所へ置かれた朱色の駒をとん、と指先で軽く叩く。それは光秀が後方の陣を敷いた場所を駒で指し示したものだ。新しい朱色の駒を奇襲されたという場所へ置いた清秀は、自軍を示す黒の駒を信長軍を示す駒の方へ近付け、新しい黒駒を取り出す。

「こちらの駒はどうぞ殿のご随意に。指揮はお任せ致します。雨が降っては使えませんが…雨が止めば良い戦力にはなるでしょう」

新しい駒を指先でとんとん、と二度叩いた清秀は頬杖をついたままで視線を大名へと流し、笑みを深めた。

「最後の幕引きは、殿ご自身の手で行うのがよろしいかと」
「そうか、そうだな。あの魔王の首を獲るのはこの私だ」
「……殿、まさか前線へ出られるのでございますか?」

清秀の言葉に乗せられた大名が、自軍の優勢を信じて気を大きくし、欲に燃えた目へあからさまな闘志を燃やす。主君の物言いに驚いた武将は、それでもあくまで静かに諭すかの如く問いかけた。しかし、返って来たのは是といったものであり、武将は微かな苛立ちを過ぎらせた眼差しを清秀へ向ける。
清秀は当然、武将の眼差しに気付いていた。気付いていて尚、ただ悠然と笑みを深めるだけであり、おもむろに立ち上がった男は天幕の端に立てかけられた朱色の傘を手に、歩き出す。

「それでは私は己の天幕へ戻ります。……明日の大勝、ご期待申し上げる」
「……お送り致しましょう」
「要らないよ。君とはもう、必要な事は話し終えているからね」

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