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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第19章 響箭の軍配 弐



(私を拘束していた人を撃った時も、今も)

光秀はいつでもより犠牲が少なく済む方法を選んでいる。
自分の手を汚し、自分の評価を貶めて、身を削りながら。身を翻して光秀が帯刀していた刀を抜き去り、借りた銃を八瀬へ投げて返しながら迫ってきた敵の腹部へ鋭い蹴りを飛ばす。様々な色が混じり合う中、光秀の白だけが鮮明に映り込んだ。
人が命を散らす事を容易に肯定は出来ないし、自分自身が手を下せるかと言えば、それも出来ない。眉間とこめかみを撃ち抜かれた男の最期の顔も、焼き付いて離れはしない。しかし、凪は前を向く事が出来た。自分を助ける為、その手を汚した光秀に、怯えた情けない顔などは見せたくなかったのだ。

(光秀さんは自分の信念に従って戦ってる。私が武器を取って戦う事は出来ないけど、それならせめて)

飛び散る血飛沫は身を竦ませ、呼吸の仕方を一瞬忘れそうになる。しかし、このひと月で凪は光秀を通して幾度も感じた事を、自分自身で覆したくはなかった。

(先の時代に生まれた私が、目を逸らさないでちゃんと受け止める。光秀さんの信念も、目の前に広がる光景も)

凪に治療を施された兵が礼を言い、武器を取って光秀の部隊へと加わる。その背や、翻る白を視線で追っていた凪の傍に光忠が近付いた。彼女の横顔をちらりと視線で流し、自分が敵を斬り伏せていた時に見せた怯えの色を打ち消していた様に気付き、微かに目を瞠る。凪が向ける視線が、光秀を真っ直ぐに見つめていると気付いた男は、ああ、と何処か納得した様子で胸中に短い言葉を零した。

(やはり、この女はどうにも変わっている。怯え泣き出すかと思ったが、目を逸らさぬ事を選び取ったとは)

普通の女ならば、とっくに逃げ出しておかしくはない状況で、彼女は毅然と前を向いている。そっと肩を竦めた光忠が不意に空へ視線を投げれば、いつの間にか暗くなっていたそこには暗雲が立ち込め、幾分涼しさを含む風が戦場に吹き付けた。やがてぽつりと落ちて来た小さな雫の存在に気付き、光忠がすぐさま視線を光秀達の隊へ向ける。

「…雨?」

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