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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第19章 響箭の軍配 弐



弾けるかの如く幾つもの銃声が響き渡り、突然の奇襲によって動揺した敵小隊の隊列や勢いが削がれた。鉛玉を食らい、前列が崩壊したのも束の間、甲の背後に控えた第二射が次の号令で銃口に幾多の火を吹かせる。完全に大勢が崩れた敵小隊と、鉄砲隊の後ろに控えていた足軽達がぶつかり合う中、光秀の背をただ見つめていた凪は、我に返った様子で歩けない負傷者の手助けをする為、走り寄った。

「凪、お前はもういい。下がれ、負傷者を運ぶのは私がやる」
「でも…!」
「敵方に鉄砲部隊や弓取りは居ない。去りたくなくば、せめて軽傷者と共に身を潜めろ」

足を負傷している兵へ肩を貸す形で凪の動きを止めた光忠は、彼女の視線が光秀へ向いている事に気付き、そっと眉根を寄せる。厳しい声色の中に仄かな気遣いを漂わせ、歩行に支障のない者を任せる形にして光忠は五郎が奥へ隠した重傷者の元へ向かった。

「姫様、自分も光秀様の部隊に加わります。小隊の数は多くありませんから、ここで数を減らしておかなければ…!」
「せめて腕の傷だけでも診させてください。すぐに終わりますから…!」
「面目ありません…」

正面は光秀の部隊がしっかりと固めてくれている為、医療小隊にまでその手が届く事はない。光忠の言う通り、後方へ下がり、草間の影に潜んで軽傷者の手当てを手早く済ませながら、彼女は視線を光秀へそっと向けた。
足軽達が戦いを始め、鉄砲部隊も武器を持ち替えて応戦を始める合間、ふと光秀が手にした銃を構える。留まる馬上からある一点へ狙いを定め、そこへ目掛けて引き金を引いた。
パァン…!!空を裂く銃声が響き渡ったと同時、敵小隊の後方で一人の男が倒れたのを確認すると、光秀はそのまま銃を片手にひらりと馬上から降り立つ。

「隊長が討たれた!退け!!」
「このまま退けるか!押し潰せ…!」
「戻っても殿の叱責を受けるだけだ!敵将の首を獲れ!!」

敵方からどよめきの声が幾つも聞こえ、明らかに統制が取れていない様子を目の当たりにしながら、凪はふと訓練時に家康が話していた事を思い起こした。

────…よく見ておきなよ。あの人は必要と思えば急所を的確に撃ち抜く。

────それが最善で、両者共に一番犠牲を少なくする方法だ。


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