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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第19章 響箭の軍配 弐



「あくまでも敵の隊列を乱し、麓への到着を阻むと同時に勢いを削ぐ事が目的だ。可能な限り致命傷は避けろ。だが…」

片手で手綱を器用に捌き、腰に差した銃の持ち手へ右手の指を滑らせつつ、光秀が敢えて一度言葉を切る。笑みを一切浮かべていない男の面差しは冴え冴えとしていた。一片の迷いもない金色の眼が真っ直ぐにただ一人の姿を映している。薄い唇がそっと動き、長い睫毛を一度緩慢に伏せた光秀が、瞼を持ち上げた。

「医療部隊へ敵の接触が見られた場合は、容赦なく撃ち抜け。何としても進行を止めろ」
「…御意にございます。光秀様」

毅然とした主君の横顔を垣間見て、九兵衛は緊迫感を露わに頷く。肌から迸るかのごとく鋭い殺気は、兵達の士気を静かに上昇させた。ふと視線を空へ投げ、先程よりも暗く曇って来た様子を見て取り、光秀は微かに眉根を寄せる。
凪が告げていた言葉を脳裏に思い起こした彼は、まるで自らへ言い聞かせるかの如く、小さな声量で溢した。

「……雨に降られる前に、白兵戦へ持ち込む」

やがて駆け下りた先、開けた平原へ辿り着いた光秀は、正面からの敵襲に気付いたらしい医療小隊の様子に双眸を眇める。その刹那、怪我人に扮していた兵が抜刀して光忠へ襲いかかったのを認めて右手を這わせていた銃のグリップを掴み取った。光忠が二人の兵を打ち倒し、その場に思わず立ち尽くしてしまったのだろう凪を認め、そっと苦々しげに眉根を寄せる。

(……凪)

心中でその名を溢したと同時、もうひとり負傷兵へ扮していた敵が凪の身体を背後から掴み、白く華奢な喉元へ刃を突き付けた姿が視界へ映り込んだ。途端、怜悧(れいり)な色を携えた光秀の眼が温度を失くして眇められる。

「八瀬、配置に着いたら銃を渡せ」
「かしこまりました…!」

有無を言わせぬ低い声色に八瀬が目を瞠り、即座に是と答える。掴んだ銃を早駆けする馬上で構え、元目当(もとめあて)へ片目をあてがい照準を合わせては、馬の振動と飛距離を即座に調整した光秀が、凪を背後から拘束する頭ひとつ分程長身の男の眉間目掛けて、一切の躊躇いもなく引き金を引いた。

パァン…──────。

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