• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第19章 響箭の軍配 弐



(あの御方って、もしかして…っ!?)

この時代において自分を知っている者は安土の面々を除くと、そう多くはない。ましてや刃を突き付けて来たという事は、敵方の人間────中川清秀の手先に他ならないのだ。首筋に小刀を突き付けられた事より、そちらの方へ意識を向けた凪は、敵兵の拘束をどう対処すべきかを努めて冷静に思考しようとした。清秀と二度対面している凪としては、あの男が少なくとも自分の命を取らせるよう命じているとは思えなかった為、刃は暴れないようにする措置と予測しての事である。

「…一体何の目的で私を─────」

緊張感に強張る身体と喉を叱咤し、凪が敵兵へ問いを投げかけようとした刹那、彼女の頭ひとつ分以上、上背のある男に向かって何処からか鋭い銃声がほとんど同時に二発響き渡った。


──────────────…


─────凪達小隊援軍が麓の医療部隊と合流した頃とほぼ同時刻。

静かな闘志を漲らせて山を一気に駆け下りていた、鉄砲足軽混合部隊の先頭で道を示すように騎馬で駆けていた光秀は、ふと目にした光景に眼を見開いた。同じように僅か後方で馬を駆る九兵衛も、前方の様子を見て取り、小さく驚きの声を発する。

「凪様…!?」

(─────…あの馬鹿娘、何故戦場へ)

光秀の驚きを代弁した九兵衛の声と同時、胸中で苦々しく呟いた光秀の眸が途端に鋭さを増した。あと僅かで敵の奇襲を狙った小隊が麓の医療部隊の元へ到着し、そのまま急襲するだろう。信長の本陣を狙ったような動きを見せる芸当など、小心者の大名が取れる筈がない。であれば、確実にあの動きは清秀の策によるものだろう。

「麓へ到着次第、予定通り鉄砲隊甲(こう)は配置へ着け。乙(おつ)は第二射の構えだ」
「はっ…!」
「御意」

肌で感じられる程に冷たく張り詰めた空気感をまとわせた光秀の、常と変わらぬ抑揚のない低く朗々とした声が指示を飛ばす。甲の隊長である九兵衛と、乙の隊長である浅次郎がそれぞれ返答をしつつ、前方を注意深く見つめた。

/ 903ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp