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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第19章 響箭の軍配 弐



そうして初めての護衛(臨時)と護衛対象の小競り合いは、ひとまず凪の言い分を呑んだという形で幕を閉ざしたのだった。


──────────────…


凪と光忠を含む数人の医療兵で組まれた麓への援軍小隊は、光秀が予め指定していたという近道らしい下り道を使い、ようやく現場付近へ辿り着いた。下りはさておき、登りは重傷者を板に乗せて運ばなかればならない為、それなりの力自慢か、数人がかりで対応する必要がある為、重傷者の数に応じて援軍が必要になるという訳である。
援軍がやって来た事に安堵した小隊の指揮を執っていたのは五郎だった。光忠と共にやって来た凪の姿を見て驚きを露わにした男はしかし、すぐに切り替えると彼女を中軽傷者の元まで案内する。

「大丈夫ですか、すぐに処置しますからね」
「ひ、姫様!?何故ここに…!」

戦場に出ていた信長の一隊に所属する兵達は、凪が従軍していた事は知っていたものの、戦場の中へ下りて来るとは微塵も思わず、目をひん剥いた。
腕に矢をかすめたという男の手甲を外し、竹筒に入れた水で傷口を洗った後で患部を確かめる。幸い深手ではないようで、膿を抑える薬を貝殻の入れ物からすくい、指先でそっと塗り込んでいった。陣内では色々と作業を手伝っていた所為で、あまり凪が対応している場面を目にしていなかった光忠は、思った以上に手早い処置に内心驚きつつ、一隊が処置している場をぐるりと見回す。周囲の気配を探り、近くに潜む者が居ないかをつぶさに確認しながら思案を巡らせた。

(前線からは離れているが、腕の良い弓取りならばある程度狙いを定める事など造作もない。凪を奥側へやり、歩ける者は自らそちらへ向かわせるか)

凪自身を動かすのではなく、凪をあまり目立たぬ場所へ留め置こうと考え、光忠は治療を待つ兵の元へ声をかけようと視線を動かす。しかし、口を開こうとした瞬間、男の鼓膜がほんの微かな地響きを捉え、咄嗟に双眸を見開くと刀の柄に手をかけながら身を翻した。

「凪…!」

鋭い声で名を呼ばれ、兵の包帯を巻き終えた凪が顔を上げたと同時、五郎も気配を察知した様子で医療兵へ声を張り上げる。

「敵襲!!お前等撤退だ!!」
「重傷者は!?」

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