第8章 大切で残酷な暖かい過去
ユリス
「魔法は呪文が無くても発動は出来る。だが、効果としてはそこまで強くはない」
レティシア
「…じゅもん、知らない」
ユリス
「呪文はなんだって良いんだ。意味が無くても口にしてみて、しっくりきて力が入るもんで良い」
レティシア
「何でも…」
小さく呟いたレティシアは自身の両手を見詰めながら、色々と考える。
だが、そんな簡単に何か出てくるわけもなく
ユリス
「色々、適当に口に出してみろ。…時々、良いもん隠れてっからな」
言われた通り何の意味もない思い付いただけの言葉を呟いていく。
レティシア
「…フィピテオ……、ぁ…」
ユリス
「良いんじゃねぇの?」
しっくりきたものが見付かり、ぱっとユリスの顔をレティシアが見上げると目の前で彼は笑って頷いてくれた。
それが嬉しかったのか表情筋は動かなかったが、何度もそれを口に慣らすように呟いた
ユリス
「良いか、目的や対象が明確になったらそれを言いながら魔法を発動させるんだ。取り敢えず言えば良いわけじゃねぇからな」
レティシア
「分かった」
ユリス
「じゃ、レティシア…お前は絶対にこれを覚えろ」
レティシア
「…ん?」
目の前に立っていたユリスは少女に近付いてしゃがむと、驚かせない様に気を付けながら優しく肩を掴む
ユリス
「母ちゃんが部屋を開けようとした時に開けれなくするのと、鍵穴を変えるのを…簡単に想像出来る様になれ」
レティシア
「難しそう…」
ユリス
「お前なら出来る」
黄色の片目に見詰められればレティシアは、頷いて拳を握る。
せっかく庭に出た2人と1匹だったが、やる事は室内のものだったと思えばユリスは苦笑して室内にレティシア達を連れて戻る
ユリスは上手くいかない事に悩みながらも、少女にとって何が最善で何が怖くないのか探りながら接していく事は確かに簡単ではない。
だが、生まれて初めて充実感をユリスは味わえている様な気がしていた