第8章 大切で残酷な暖かい過去
レティシア
「…フィピテオ」
ユリス
「よし、上出来だ」
レティシアは5回目でユリスに言われた両方を成功させた
ユリス
「これで、家に戻っても自分の身が守れるだろ?」
レティシア
「…うん、ありがとう…ユリス」
表情が変わらないので喜んでいるのかは分からないが、僅かに声のトーンが上がったように感じたユリスは嬉しそうに表情を崩した。
レティシアもユリスに慣れたのか段々と自分から彼へ話し掛ける事が増えてきた
─────…
────…
その日、レティシアは家に帰り部屋でいつもの様にジルヴァと音をたてずに遊んでいると扉の向こうから母の靴音がして、レティシアは慌てて扉に掌を向け
レティシア
「フィピテオ…」
─ガチャガチャ
母
『あら?何で開かないの?』
その声が聞こえるとレティシアはジルヴァの顔を見て、思わず彼を抱き寄せる。
母
『ちょっと!誰かここの鍵を持って来てちょうだい!』
扉の向こうで苛立ったように荒れる声を聞くとレティシアは、もう一度掌を向けゆっくり息を吐き出し目を瞑りながら想像する。
レティシア
「…フィピテオ」
もう一度、呪文を唱えるとレティシアがいる部屋の鍵穴は今使われているものとは違う形に変わった
使用人
『こちらです、奥様』
母
『開けてちょうだい』
使用人
『はい』
─ガチャガチャ
使用人
『すみません、奥様…鍵穴が合わず…』
母
『は!?何言ってるのよ。貴方が間違って違う部屋の鍵を持ってきたんじゃないの?』
使用人
『いえ、こちらで間違いないです』
母
『どうなってるのよ!……良いわ。貴方あとで私の部屋にハーブティーを持ってきてちょうだい』
使用人
『畏まりました』
扉の外からの声を、じっと聞いていたレティシアは母が去って行く靴音に安堵の息を零して再度ジルヴァを抱き締めた。
その安心感からレティシアは、そのまま絨毯の上で眠ってしまった