第8章 大切で残酷な暖かい過去
ユリス
「うし、その痣も治してやる」
レティシアの晒している太腿にあった痣はユリスが呪文を唱えると、すっと消えていった。
それを見たレティシアは何度も瞬きをしてからユリスへ視線を向け
レティシア
「ありがとう…」
ユリス
「いーえ。っと、名乗り忘れてた。…俺の名前はユリス·ロベールだ」
エドゥアル
「僕はエドゥアル·ボネだよ。宜しくね」
2人が少女のペースに合わせてゆっくり名乗ると、レティシアは軽くお辞儀をした。
ユリス
「さて、日も昇って痣も治った事だし…家帰るぞ」
エドゥアル
「おいおい…家に帰すのか?」
ユリス
「ここはこいつの家じゃないんだ。それに、こいつにもお泊まりだってちゃんと言ったぞ」
面倒臭そうにエドゥアルを見ながらユリスは言葉を吐き出す。
そんな彼を見てエドゥアルは呆れるしか無かった
エドゥアルは俯いてしまったレティシアへ視線を向ける
エドゥアル
「ユリス」
ユリス
「ガキなんて面倒意外なんでもねぇだろ」
エドゥアル
「ユリス…そんな言い方ないでしょ」
ユリス
「…また来いとは言った。それで良いだろ」
エドゥアル
「全くお前は…」
優しいのか薄情なのかイマイチ長年共にいるエドゥアルにも分からなかった。
エドゥアルが溜息を吐き出そうとした時、動かなかったレティシアがソファから降りる
レティシア
「ジル…帰ろう」
少女にずっと寄り添っていたジルヴァにレティシアが声を掛けると、虎魔獣は羽で浮き上がり少女の脚元に着地した
レティシア
「ユリスさん、エドゥアルさん…ありがとう」
無表情で抑揚のない声を発したレティシアがお辞儀をすると、エドゥアルは少女に近付こうとしたがそれよりも先にユリスが、レティシアの幼い手を握っていた
ユリス
「帰り道分かんねぇだろ。送ってやる。…それから、ついでに俺の家の来方も覚えろ」
レティシア
「……分かった」
エドゥアル
「やれやれ、不器用な奴だ」
それを見たエドゥアルの声は呆れていたものの表情は嬉しそうに綻んでいた