第8章 大切で残酷な暖かい過去
エドゥアルが来て数時間が経った頃、レティシアが目を覚ました。
それを見たユリスとエドゥアルはソファに近付き床に座り、上体を起こした少女を見上げる
ユリス
「良く寝れたか?」
レティシア
「……うん」
ユリス
「んで、早速で悪いんだが…お嬢ちゃんの名前は?」
レティシア
「レティシア·フォンテーヌ…」
エドゥアル
「え…!?」
レティシア
「……っ、ごめん…なさい」
エドゥアル
「あぁ、いや…大きな声出してごめんね」
フォンテーヌ家の名前に驚いたエドゥアルの声にレティシアの小さな身体は過剰なまでに跳ねた。
それを見たユリスは、少女の生活環境は自分が予想していたより過酷なものだったのだと感じる。
エドゥアル
「まさか、貴族三大勢力で1番力を持ってるフォンテーヌ家の子だなんてね」
そんな大貴族が将来フォンテーヌ家を背負っていく子に手をあげていたという事実にエドゥアルは、胸を掻き毟りたくなるほどの嫌悪感を抱いた。
と同時に少女の紫の瞳は全てを諦めた様に濁っており、それが隣でレティシアを共に見上げている幼馴染と重なった
ユリス
「なぁ、お前…服の中にも痣があるだろ」
レティシア
「………」
ユリスに問われるとレティシアは静かにワンピースの裾を捲り確認する。
少女の太腿にも当たり前の様に痣が残っていて、初めて見たエドゥアルは悲痛に表情を歪める
レティシア
「でも…お兄さんに…治してもらったのに」
ユリス
「良いか、魔法ってのはな。自分でちゃんと把握しないと駄目なんだ」
レティシア
「……?」
ユリス
「俺が昨日お前の痣を把握出来たのは見えてる部分だけだった。だから、その部分しか治せなかったんだ」
レティシア
「……服の中は痣があるか、分からなかったから…治せなかったって、事…?」
ユリス
「そうだ。…何だ賢いじゃねぇか」
エドゥアル
「事によっては予想でやる事もあるけど…予想だけで魔法をかけちゃうと危ない時もあるからね」
その為ユリスは服の中も痣が広がっていると予想していても、確実性がなかったから治さなかったのだ