第8章 大切で残酷な暖かい過去
エドゥアル
「ユリス…お前そろそろ女の子に刺されるんじゃないか」
ユリス
「おー、この前あったな」
エドゥアル
「は…?」
ユリス
「心配すんな。俺が刺されるわけないだろ」
エドゥアル
「誰がユリスの心配なんかするか。僕はその子が心配だよ」
ユリス
「何でだよ!?」
エドゥアルの言葉を予想していなかったユリスは椅子から落ちそうになりながら問い掛けるも、エドゥアルは呆れた表情だけを返した
部下
「ユリス補佐官、ちゃんとお仕事してください」
ユリス
「してるよ。てか、したよ。これっしょ?」
部下
「そうです。…悔しいですが、流石ですね」
ユリス
「悔しいとは…」
渡された書類を受け取ると部下は、はぁ…と分かりやすく落胆の息を吐き出してからユリスに1度、頭を下げて自分の場所へ戻っていく。
親しみやすい空気を漂わせる彼に部下は遠慮なく言葉を吐き出すが、他の基地でそんな対応をすれば間違いなくどこかへ飛ばされている。
ユリスだから許されるのだ
ダルそうにしながらユリスがマウスを動かしていると、急に口元を緩めエドゥアルに声を掛ける
エドゥアル
「何?」
ユリス
「見ろ、こいつ」
エドゥアル
「……これ」
ユリス
「うし、ちゃんとした証拠を掴まなきゃな。調査部隊を送るぞ」
エドゥアル
「それが良さそうだね」
調査部隊とは組織内で違反行為を行っていると怪しい存在を司令から命を受けて調査をするのだが、補佐官の命では大体は動かない…
調査部隊
「で、ですが…司令官からは何も伺っておりません」
ユリス
「良いから。メディ司令官には俺が後で伝える」
調査部隊
「我々は司令官の命で動く部隊です」
ユリス
「…俺が指示を出して司令官を怒らせた事があるか」
調査部隊
「それは…」
ユリス
「どうだったかな、エドゥアル補佐官」
エドゥアル
「ないね」
ユリス
「そういう事だ」
調査部隊
「わ、分かりました。只今よりターゲットを調査します」
ユリス
「宜しくー」
先程まで冷たく、ぴりっとした空気や声を放っていたユリスだったが、調査部隊が頷くのを見れば普段通りに緩く返す
彼だけが例外なのだ。
司令官の絶大な信頼を得ているユリスのみが、勝手に指示を出しても咎められない。
理由は彼の指示に間違いはないからだ