第8章 大切で残酷な暖かい過去
ユリスは勿論いくつになっても優秀さが変わる事はなかったが、彼の素行は段々と悪くなっていき…16歳の頃には女遊びが派手になっていた。
切れ長の目が印象的な端正な顔立ちに、毛先が少しハネた銀髪に高身長な容姿で口が上手い彼は、女性に困らず寧ろユリスの争奪戦のようだった。
だが、ユリスが女性に本気になる訳もなく彼の気分を害せば2度目はない
女性
「ねぇ…どうして、その眼帯外さないの?」
ユリス
「これがあったって何の邪魔にもならないだろ?」
女性
「そうだけど…ちゃんと貴方の両目に見られたい」
ユリス
「どうして?…あってもこうして…」
女性
「んぁ…っ」
ユリス
「ほら、君は気持ち良くなれるだろ?」
女性
「ん…お願い…」
快楽で肌が赤くなった綺麗な顔の女性が、ユリスの左目を覆っている眼帯に触れた瞬間─
ユリス
「触んなよ」
女性
「え…っ」
地を這うような低い声に女性は、びくっと身体を震わせて固まる
ユリス
「はぁ…萎えた」
女性
「ちょ…っ」
ユリス
「大して深い仲でも無いのに知ろうとすんな」
女性をベッドに残してユリスは去っていった。
"来る者拒まず 去る者追わず"だが、ユリスには触れられたくない部分が1つだけある。
それが先程の女性が触れ彼の気分を害してしまった、眼帯で隠した"左目"の色だ。
ユリス
「ふぅ…」
家に帰る途中で気分を収めようとポケットに突っ込んでいた煙草を咥え、人差し指を先端に触れさせ咥内で呪文を唱えると小さな音を立てて先端に火がつく。
そして、苛立つそれを鎮める様に息を吐き出す
紫煙を見詰めながら何となく眼帯に触れる
ユリス
(誰にだって見せるわけねぇだろ…)
フードにファーが着いたカーキ色のモッズコートのポケットに、眼帯を触れていた手を差し込んでユリスは闇へと消えていった