第15章 予感と奇跡
「死に体の司君をいじめるの、その辺にしといたら?氷月。今凄く無様な醜態を晒してるよ?
《ちゃんとしましょう。本格的に脳が溶けてますね》」
そう氷月の台詞を引用。プラス氷月の声真似をしながら葵が続けた。過大な演出と煽りで、氷月の気を引く。
「……死に体の司クンもですが、未だにピンピンしてる君の方も始末しないといけませんね。非常に不快です」
氷月が睨む間、千空の方はズリズリ、と葵が引き摺った分温存出来た体力を振り絞って這っていた。制止した状態の氷月の背後にジリジリと近寄る。
「へえ、『武芸を齧った程度の人間』から潰す系の 弱腰だったとは初耳だね。昔の真面目にやってた氷月は何処行ったのかなあ?それとも私と遊ぶのそんなに終わりにしたいのかな」
わざと長ゼリフを、息継ぎ無しで喋る。歌手の肺活量をこんな場面で使う羽目になるとは。
内心では葵がシクシク泣いていたが、事が事だ。この程度の自分の担当の仕事くらいは『ちゃんと』する。
管槍を軽く弄ぶ様に回すヒュンヒュン、という見た目のインパクト。
そして高らかに上げた声でこれでもか、と氷月を引きつける。勿論、近寄る千空という『カード』を隠す為だが、まさか入り乱れた状況で、刺された千空の方が無事で居るとは想像もつかないだろう。
「ええ。君と遊ぶのも、この二人の楽しい共闘の時間もーー終わりで「あーー…、終わりだ」
指先に包帯を巻いた千空が、氷月の足元付近に這いずり寄って居た。
ーーー何故こんな所に…いつの間に……?彼女のは私の気を引く為の演技で、千空クンを隠していた……?何故いちばん戦闘力の無い千空クンを…?
「千空君の言う通りだよ。氷月」葵が、氷月の腕に軽く刺す様に管槍を構えている。
「…言ったじゃねえか。俺は科学で指先一つ触りゃ
氷月。テメーをブチ殺せるってよ」
そして千空が胸元にあったーーマンガン電池を見せた。
「原始の科学も悪かねぇ…リチウム電池ならテメーの突きで爆発してるわ。
お丈夫なマンガン電池なら攻防一体っつうわけだ……!!」
ーーそして、司の方を見やった。
「ククク…こっちも楽しめたぜ。司、テメーとのタッグはよ。…軍師サマも、流石の飲み込みがはええ…。氷月、テメーが負け続ける訳だ」