第15章 予感と奇跡
そう氷月に淡々と告げると、千空の左手の小指が伸びた。ふ、と葵がそれを見て笑った。
ーーチェックメイトだ。
「俺と司、葵の科学プレゼント、喰らいやがれ……!
10万ボルトのスタンガンだ……!!!」
慌てて氷月が管槍を動かそうとするが、司の腕が握り締めて離さない。オマケに葵の管槍が動かそうとした腕に食い込む様に配置されている。
ビリリリイィイイイッッッ!!!
夜の闇を眩いスタンガンの光が照らす。
「ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」
痺れた氷月の身体が、宙に浮く。
「ど…こ…から…こん…な…!!」
「ククク…氷月、も~う忘れやがったのか。
テメーがご自分でご親切に材料届けて下さったじゃねーか」
ーーケータイのコイルと電池を繋いだ、高圧トランス。
「あ~~~~……クソ……科学………」
……波の音が、その場を支配した。
長いようで短い共闘の終わりを告げる音。
静かに、千空と司がハイタッチをした。
「…お疲れ様、二人とも」葵が少し息絶えだえに言う。
「あーー、軍師サマもな。ククク、本業じゃねえんだろ?よくあそこまでやれんな」
「これでも、このバケモノみたいなヤツと同じ道場通って、いつも勝ってたからね。元々筋が良かったんだろうね。でも、策謀とか演技とかの方が向いてるし。それで補ったら行けただけ」
そう言ってトン、と重しの様に倒れた氷月の上に腰掛けた。トントン、と自身の肩で管槍を叩く。
「成程な。こんなヤツと一緒に居たら、お前の方も自然と実力が伸びる訳だ」
千空の言う通りだ。氷月は自分が一方的に後ろで追っかけてるつもりなのかもしれないが、少なくとも葵はそうは思わなかった。
自分の家も、旧い家だからと性別関係無く武芸をやらされた。内心ではやりたくなかったが、自分より向いてないのに必死に練習する氷月の姿を見てると、本気になって練習し、常に1歩先に居なきゃーー
そう思っていた。歌に出会ってそちらに本腰を入れ終わるまでは鍛錬を続けたし、時々ストレス解消気分で練習は続けていた。
「そうなんだけどね。氷月は私が言ったところで信じないから。…この子は一人なんだよ。いつも」
だから昔から私が勝手に構いまくってたら、家の方が変に勘違い加速するわ縁談来たわ、等と雑談で千空と盛り上がる。