第14章 おかえり、未来
あっ…うん。居たね。葵だね。僕の困ったお嫁さんだね。
羽京は内心で頭を抱えた。そう言えばこういう子だった……ぶっちぎる子だった…でもこういう場面では空気を読んで沈黙すると思ってたんだけど……。
「……え」司が、思わず後方で管槍を背負って歩く葵を見た。左手にはクッキーの袋。右手でもぐもぐとクッキーを食べている。
「あのさ、葵。今の空気分かる?」
「??」
「クッキー食べながらこんな話をする場面じゃないよね」思わず羽京がお説教モードに入る。
「…?ひょっとまっへ」食べ終えるから、とリスのように頬袋を膨らませもぐもぐしてる葵。
この子の辞書に反省の二文字はあるのだろうか。
本格的に青ざめる羽京に、重い問いかけをした司の方が逆にフォローを入れた。
「気にしないで、羽京。……葵。もう少し、詳しく話してくれるかい」司が手招きをすると、葵が、はーいとクッキーを食べ終えた状態でトコトコ~と先頭の司の元にやって来る。
「…君がもしストーンワールドに、人が殆ど居ない状態で、復活液で人を選ぶんだ。その罪を、1人で背負う気は無いのかい?」
「?1人で背負える罪なんて、たかがしれてます。1人ではとても無理です」
「それは……」
「私なら、そもそもの前提をぶっ壊します」
そう、透明なガラスのようでいて、鋭くよく響く声が皆の心に刺さった。
「……前提、か。うん、具体的には?」
「罪をみんなで背負うんです。私なら、私に出来ない事が出来る人を選びます。……大体、復活液は量産できないーー
その前提の方がおかしいんですよ。大事な人で手術で治る病気なのにお金が無くて治せない、って人が居て。他のお金持ちで治ってる患者さんを見た時。その人はどう思います?」
「…そうだね、うん。……無力感を感じるし……
理不尽だと、そう思うよ」
「でしょ?その理不尽を壊してきたのが、人類の歩みーー歴史ですよ。現代で治る病気も、かつては治らなかったのですから。
理不尽への怒り。この前提すら覆す程の思いーー
それはね、前へ進む、小さな一歩ーー
『One Small Step』なんですよ」
そう言って、葵は、行軍の先頭、戦車の行先にくるりと先回りしてニカッ、と笑った。
ーーリリアン・ワインバーグの代表曲を引用して。