第11章 カウントダウン
「…へえ、刃物を喉元に突き付けられる感覚は、こういうもんなんだねえ~」敢えて葵は、いつもの仮面を被った笑顔で笑う。
「曲作りの参考にさせて貰うよ……冥土で作れるかどうかは知らないけどね」
「……君は、死ぬのが怖くないのかい?」
「…………」
沈黙した。
死ぬの、か。前までの自分なら別に怖くなかった。
リリちゃんも誰も居ない新世界で、大事な人すら居ない新世界で。除け者にされ、居場所がなく、歌う場所も無く。
全てが無かった、ふた月前なら『怖くない』と笑顔で躊躇なく言えただろう。
ーーけど、今は。
「……死ぬのは、怖くない。自分の生命は正直どうでもいい。
ーーけど、他の子達は……羽京君にだけは、泣いて欲しくないかな。」
矛盾した願い。自分が死ねば、彼を酷く傷付けるだろう。でも本当の気持ちだった。
自分の生命を軽く扱ってきた時間の長さ。そして、他人を傷つけたくない、という二つの天秤にかけられた想い。
大事な人が出来た。醜い中身でも、仮面のうちを知っても『頼りになる』と笑ってくれた人達がいた。
ーー短い間に、居場所が出来た。
「……矛盾してるのは知ってる。
死ぬのは怖くない。でも誰も泣いて欲しく無い。
誰も……自分以外が傷付くのは、嫌なんだ……
だから、死ぬのは怖くないけど……
……死んだ後が、怖いな」
そう言ってふっ、と。作り物でない、本物の笑みを浮かべた。