第11章 カウントダウン
てくてくと歩くが…早い。氷月が早すぎる。
「氷月、身長私より高くなったのはいいけどさ、歩くペースくらい落とせないの?ちゃんとしよ」
「…はあ」呆れつつも、なんだかんだで葵に合わせてくれる。……氷月は危険思想の持ち主だが、良くも悪くもその辺の分別くらいはつく。
『ちゃんとしてる』と認めた人物ーーこの場合、葵の話ならまだ聞く耳があるのだ。
「着きましたよ」
暫く歩き、そこは司の居る洞窟ーー
の、はずだが。
「居ないね…?」中はもぬけの殻である。
通りすがりの兵士に氷月が尋ねた所、千空の墓へ向かったらしい。
墓。まさか。
イヤな予感がする。時間が無い。
「……氷月君」「なんですか」
葵はかつて道場で一緒に居た頃のように呼んだ。気のせいか、反応がいつもより早い。
「縄切れる?」「……遂に脳が溶けきりましたか」
「無理なら背負って」
………………。
仕方なさそうに、肩にグイッと荷物の様に背負われる。
「はいダッシュ!!」「しませんよ」
「墓に何かあるのか知りたく無いの?」「それとこれとは「いいからダッシュ!!!」
はーー…と大きな溜息を付くと、氷月が走る。
「うぇぇぇええっ…」
「…君、仮にも私の婚約者だったのですから、変な悲鳴をあげるのはやめて貰えますか」
「むりーーーー」葵はそう言いながら、ひたすら到着を待つ。
着いた先には、墓の前で祈る様に立つ司が遥か前方に居た。
葵が氷月に縄で繋がれたまま歩くと、此方に気付いた司が「……葵」と呟いた。
ここはそろそろ縄を外してもらい監視に以降して貰う場面で、陽君の遺品モドキは破壊して墓に行かないよう工作した。戦争が決着するまで、自身が出張って本格的な策謀はする予定は無かったのだが…。
予定変更。やるしかないのだ。
千空達が運命の20秒のカウントダウン
ーー『奇跡の洞窟』奪還作戦を実行しきるまで。
兵士達は葵の嘘の供述による冤罪で大分確保出来た。羽京も既に昨日の段階で千空達の味方についている。
ーー牢屋への差し入れの布切れに書いてあったのだ。モールス信号で、分かる程度の通信が。羽京の指示で、杠ちゃんが縫ってくれただろう重要情報。普通の人からすればただの刺繍入りの布に記載されたーー
ーーーー『本日実行』