第9章 容疑者
「あはは。君のフォローありきで言ったからね、アレは。君の嘘の付き方で、筋がそれなりに通った本当っぽい事を堂々と言えばいいのは分かってたし」
葵がため息をつく。
「まあ氷月は別にこっちと同盟組んでるので、何も言わないから良いですけど。
私が後で『確かに硝酸の洞窟付近に来てましたけど、1人じゃ来れないだろうから恐らくクロム君を囮にしてゲン辺りが視察に来て逃げたんでしょうね』ってまた嘘に嘘を塗りたくる羽目に…」
しおしおの渋い顔で葵が文句を言う。
「あはは、ごめんね?葵」
羽京が少しかがみ目線を合わせてそう謝ると、別にいいですが~と顔を赤らめる。
「…でも、君が捕まるか、重めの監視が付くけど」
「敢えて捕まる方に舵を切るよ。
それでこう口説き文句をケータイ寝返り作戦に銘打つんだ。
【アメリカと千空君達に協力すれば、囚われの歌手Aonnが解放される】【二人の歌姫の奇跡の再開に協力を】」
「あはは、なるほどね。相変わらず奇策を思いつくというか、ピンチをチャンスに変えると言うか…」
やっぱり本物の軍師は考える事のスケールが違うなあ、と苦笑いする羽京。
「で。明日辺りにでも、偶然を装ってケータイ作戦の場所に行ってくれるかな?」
「動けなくなる君と入れ替わる形で、味方として動くってことだね。分かったよ。…君はこの後どうするの?」
羽京の疑問点に対して、うーん、と葵が考える様にトントン、右手の人差し指でこめかみを叩く。
「一旦千空達に概要は伝えるかな。墓場に一度行ってから、氷月を探すよ。彼に『葵が差し入れした』とでも言われれば、司も私を監禁せざるを得ないしね」
「え、そこで氷月を召喚するの…?」ドン引きの羽京。確かに軍師が本人で報告するよりは信憑性も上がるが……
「君、よくあの氷月をそんな駒みたいに使えるね…??」
「?駒だよ、軍師からしたら。今は同盟組んでるし。私氷月に嫌われてるから全力で監視なり監禁なりしてくれるでしょ」
平然と言ってのける葵に、あああ…と羽京は頭を抱える。この子はイタズラ猫どころか、暴れ猫だ。本当に手がかかる。
「どうしました?」
「…本当に危なくなったら、助けに行くからね」
「うん。ありがとう」葵の台詞を最後に、二人はしばしの別れをした。