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僕と彼女の共同戦線

第9章 容疑者


「……えっ」
「その…アオさんが来る前に……」
クロムが脱獄した。そして陽君が滝に落ちて死んだーー

なるほどね。葵は頷いた。
クロムが脱獄したのは本当。でも陽の方は…
ちらりと監視役の1人が持っている遺品を取り上げる。

「!?な、何するんですかアオさん!?!」
「……陽君の遺品、なんだよね?報告するの、辛いでしょ?私から司君に言っておくから」
「え……でも」監視役の自分からしたら、司に嘘をつく大役をしなくて済むから、有難い。が、迷惑を彼女にかける事になる。

遠慮する彼に葵が告げる。
「きっと私が疑われちゃうので…」
「「「「!?!?」」」」
監視役達が一斉にどよめく。

「な、なんでアオさんが疑われるんですか…!?」
「私、みんなの為に差し入れしてたけど……
クロム君が逃げた今、誰かが裏で糸を引いたんだろう、って司君達が思うだろうし。そうなったら私は…」チラリ。クロムの居た牢屋を見た。

それで意味を察した監視役達が一斉にそんな!アオさんは何もしてないのに!!むしろいつも労いに来てくれてたのに!おかしいと騒ぎ立てる。

……実際は思いっきり加担してるので、有罪なのは本当だが。

「今度は私が捕まって牢屋に行くだろうから…報告は私に行かせて?お願い…司君なら、きっと私を見逃さないから…」
どうせ捕まる運命だから、幕引きは自分で。
必死に泣きそうな顔で懇願する葵。

「……分かりました…すんません、なんにも出来なくて…」そう言いつつ申し訳なさそうに監視役が持っていた陽の顔に付いていた石化部分を渡す。

「……ありがとう。覚悟が出来たら、私の方で司君に今日中に伝えるから。……またね」
そう儚げに笑い、去る。

******

ザッザッ…牢屋から近い森の中へと、陽の遺品を持って葵が入ってゆく。
深く、深く。
やがて静けさに包まれた空間の中で立ち止まり、呟く。

「羽京」
「はいはい」ザッ、と羽京が降りてくる。

「あはは。相変わらず、凄い演技力だね?」
先程の会話を聞いてたのだろう。苦笑いする羽京に、えー、と葵は不貞腐れる。

「羽京だって、こないだ大嘘ついてたじゃん。何が『狙いは硝酸でクロム君1人』ですか。クロム君は原始人だし、地理とか分からないんだからその辺突かれたらお終いなのをすんごい堂々と言ってたし」
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