第8章 繋ぐバトン
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「で?今度は何の差し入れ?」
「汗」
直球でボールを投げる千空の影響だろうか。あまりにも端的過ぎて訳が分からない羽京は、説明を促す。
「昨日は差し入れありがと~!うきょーく…羽京、追加で欲しくて」しかも未だに名前を呼び捨てにするのに照れてる。…これはこれで可愛いからまあいいや、と良しとする羽京。
「で、具体的には」
「塩水かな。……塩ならまあ調理の時に使うから、私が持ってっても問題ないけど、雪解けまで時間がそんなに無いからね。プラスでお水!」
「じゃあまたこっそり取ってくる感じかな」
「そそ。私が運良く調理担当だから、今日の夕飯の時に塩はちょろまかすけどね。でもどうせなら早くて多い方がいいし。という訳で頼んだ!!」
堂々窃盗するつもりである。あはは、と羽京が笑う。
「うーん、調理室は僕は入りにくいかな」
「あー…じゃあやっぱり盗るのは私が大量にやるか。私以外、まともな調理要員居ないからバレないし。夜間の監視の目を掻い潜る方は?」
「そっちなら」「じゃあお塩とお水運ぶのよろしく~!」
そう言って軽やかに去っていく葵。
「……敬語は外れて来たかな」千空の影響があったとはいえ、以前よりも表情豊かになった気がする。
微笑みながら羽京は葵の行先の方角を見つめた。