第8章 繋ぐバトン
「ならヤベーー科学教えてやるよ!火で海の水沸かすとお塩とかゲット出来るんだぜ!!」
ドッ、とその場が嘲笑で湧く。
「悪りー、頑張ってな!海の水で脱獄!!」
そう言い残した陽の言葉が引っかかった。
ーー海の水で脱獄。
そのセリフが、クロムにひとつの策を思い浮かばせた。
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「フンフンフンフンフ!!!」
翌日。葵が差し入れに来ると、クロムが牢屋の中で何やら必死こいて腕立て伏せやら走る素振りやら……とにかく運動している。
滅茶苦茶怪しすぎる。普通なら監視員が何か聞くところだが……ここの監視役達はそういう所まで頭が回らない。しかも『牢屋の中でヒマだし身体が鈍るから運動してただけ』と言えば簡単に騙されてしまうだろう。
ーーさっすが原始人でちゅねー、と馬鹿にして。相手の実力を実感としてきちんと測っていない状態で上から目線など、軍師としては言語道断だが…。
はあ、とため息をつくが、直ぐに営業スマイルでクロムの元に近寄る。
「クロム君~。おはよ~」
「!!!お、おう!!」
運動に夢中で葵の気配に気付かなかったのか、クロムが汗だくで振り返る。
ーー傍には、少し水の溜まった竹筒の水筒。
(なるほどね)
「あ、えーっと…ありがとな、色々」
電池の事だろう。
「いえいえ~。…ところで今は何してるの?運動不足の解消?」
敢えて深くは触れずに流す。
「……あ、ああ!まあな!!たまには運動しねぇとこんな所だと身体が鈍るしな!?しかもまだ寒みーし!あっためときたくてよ!」
そう必死に捲し立てるクロム。
「なるほど~。時には汗水垂れ流して運動するのも大事ですしね」
「おうそれな!」
少し、『お節介』を焼くか。
「クロム君、ちょーっと待っててね。すぐ戻るから」
「?おう」
急に差し入れの荷物を置いてトコトコ歩く葵を、何事かとクロムが見守る。