第8章 繋ぐバトン
トン。背中を押される。
ボチャーーンッ!!!
派手な水しぶきを上げて、葵の身体が湖へ落ちる。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
そんなに深い湖では無いが、せっかくの愛用してるモフモフのポンチョがしっとりぺったりするくらいにはびしょ濡れである。
「酷い!鬼!悪魔!!今度仕返ししてやる~~!!!!!」
「あはは、仕方ないな~」そう言いつつ、羽京に差し出された手を取り、シクシクしながら着替える為に寝室へ連行されるのだった。
「これで君が湖で足を滑らせてたから、って理由でサボれるしね」「酷い!!落としたの羽京く…羽京なのにーーーー!!!鬼です!悪魔なのです!」
「あはは。葵、意外に罵倒の語彙力が少ないね?」
そんな事を言いつつ、二人はなんだかんだで仲良く寝室へ向かったのだった。
******
ーーその日の深夜。
牢屋の中で丸まって眠るクロムの頭に、何かが転がって来た。気付かぬクロムの頭にコツン、と当たって静止する。
何かが当たった。その感触で起き上がると、そこにはーーー
(で、電池!?ヤベーー!!なんで…)
そこまで思い返してふと昼間の葵の台詞が蘇る。
「クロム君、何か欲しいモノは無いですか~?」
まさか葵が?それか、大樹か杠だが……
可能性としては、前者だろう。彼女は四天王と呼ばれる影響力を持つ。それはここ数日の彼女に対する監視役達の様子を見ていれば分かった。
やはり葵だろう。どうして一番欲しかった電池に辿りついたのかは分からないが…
彼女は帝国内の異端児だ。自分の境遇を哀れんで、今まで目をかけてくれたのだろう。
(おぅ、有難く使わせて貰うぜ!葵!)
「ならソッコーだ、夜のうちに…!」
電池のプラスとマイナス直結で火を起こすが…。
「よーー原始人、まさか見つかんねーとでも思った??」監視役部隊の隊長、陽がお出ましだ。
確かに火を使えば明かりと焦げる匂いでバレてしまう。しくった、とクロムが頭を抱えている間に、監視官達が原始人と自分を馬鹿にする。
(っクソーー!!なんだコイツら…!!!
…けど、科学は自慢するモンじゃねえ…!!千空達が罠にハマんねえ様に助けるんだ、俺が…!!)