第5章 二人の天才
ぽろぽろ、と自然に涙が溢れ出た。
周囲の目など気にせず、ただひたすらに耳を傾ける。その様子を黙ってニッキー達は見ていた。
恐らく、自分を最も敬愛する友人を使って説得して仲間に入れようとしてるからか。表情に罪悪感がある。
ーーだが、むしろ。感謝しか、今は無かった。
とても綺麗で大好きな曲が、終わった。
「……おい。聞こえるか?」少しぶっきらぼうな声がした。恐らくこの人が千空だろう。
「……うん。貴方は…千空君?」葵が少し涙ぐむ声で答える。
「ああ、そうだ。お前が葵だな?話が
「8割だよ」
「「「!?!!!」」」
突然出てきた具体的な数字。
「何の割合だ」冷静に千空が返す。話に聞いていた通り、頭が切れる人だ。
「私の持つ『軍事力』が欲しくて電話してきたんでしょ?取引だよ。
ーー8割は司帝国内の私のファンの割合。熱心な人が6割で最低保証。過半数は約束する。
残り2割はこのリリちゃんの歌があれば行けるはずだよ」
「なるほどな。話が早くて助かるこった。
ククク…葵、テメーさてはケータイ作戦の事分かってたな?どっから聞いた?」
「捕虜のクロム君と話をして、私の歌手の話題での反応で分かったかな。多分歌を武器にして寝返らせようって時に、歌手の私が既に居た!あちゃー!って所でしょ」
「大正解100億満点だ。……で?代わりにお前が要求するモンは?」
「…リリちゃんの曲、今度は電話越しじゃなくて、ガチのレコードで聴きたいかな。……あと。リリちゃんの歌、使われるんじゃないかな、ってちょっと予想はしてたんだ。
本当は複雑だったけど……ここに来て分かった。ありがとう。
復活させてくれて。リリちゃんの歌……遺してくれて……聴きたかったんだ。この声が……!!本当は、ずっとずっと聴きたかった……!!」
そう言って葵は土まみれのマイクの前で微笑んだ。策謀とか思惑ナシの、本音。
「葵……」誰よりもリリアンを愛した彼女の心中に最も近いニッキーが、葵の本当の心の声を聞き届けた。
零れかける涙を拭い、そして台詞を続ける。
「私は今参謀ーー『軍師』として司君を支えてるけど、司帝国の人の不満は多いしね。司君の武力やらなんやらで抑え込んでるだけ」