第5章 二人の天才
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「おーーい!葵!!」
葵がクロムの牢屋から戻って来たのを見計らったかの様に、大きな声で話しかけて来たのは大樹。後ろにあはは…と苦笑いする杠や、神妙な顔付きのニッキーまでいる。
明らかに帰り道で待ってた感じだ。
ーーこれは、本格的に自分の予想が当たったのだろうか。
何も知らないフリをして、葵はどうしたの?と大樹に問いかける。大樹が答える前に、ニッキーがぐい、と前に出た。
「アンタに、聞かせたい話があるんだ。」
「…もしかして、何か大事な話かな…?」
ああ、と頷くニッキーにわかった~、とついて行く。
その先はーー千空の墓場だった。
打ち合わせた通りなら、墓場は重点的に見張るポイントだ。羽京が居て、聴こえているはずである。
「……え、これ……!!ケータイだよね??」
葵が驚く演技をすると、ああ、と頷くニッキー。
……今の私の声で、ハッキリとケータイの存在は羽京君に伝えられただろう。
ザッ、ザーという荒れた音声の後、聞こえて来たのは…
「これ……リリちゃん……の……」
思わず自然と声が零れた。演技では無い。
心から聴きたかった声。作戦として使われる事への複雑な気持ちと、本当は声が聴きたい願い。
ーーどうやら、後者が勝った様だ。
美しく力強い声。抜群の世界トップクラスの歌唱力。自分も歌唱力を褒められはするが……きっと、越えられない。
聴いてるだけで何故か勇気が出てくる。何だってやれる気がした。
ーー嗚呼。神様……右頬の自らのヒビに手をあてる。十字架の様な特徴的なヒビ。
もう声も聴けないと思っていた人が、ここに居る。生きて、いる。ーー歌の中で。3700年の時を超えてなお。生きているのだ。
彼女はきっともうこの世には居ないと覚悟していた。そんな事くらい予想出来た。石化したらしたで、ISSごとそのうち落下する。運良く帰還成功出来ても、今頃は絶対に居ない。
だから、二度と会うことは無いと思っていた。
会うのは叶わない願いだと。
ーーでも。彼女の歌を、もう一度聞くことが出来た。千空達、科学王国のおかげで。
「ありがとう、また…、会えたね……!」
もう絶対に叶わない願いと、叶った願い。
その二つの願いを、葵は静かに噛み締めた。