第5章 二人の天才
必死の説得の末、皆さんお優しいですね…ありがとうございます、と葵が笑う。監視員達からすればそれだけで目の保養である。
「……監視のお役目でお疲れのようですし、どうでしょう?1曲。……もちろん、配置はそのままで」
葵の提案に、わあっと場が盛り上がる。
「ではでは1曲~、……曲名は『Braves』」
ーーーどんな困難にあったって どんな荒波に揉まれたって
負ける事は無い それだけは無い
世界に後ろ指を刺されても 行こう
世界を敵に 私と共に
行こう その先へ
誰も知らない僕らの世界
誰も知らない新世界へ
世界は変える為にあるーーーーー!
その儚げな見た目から反して出るのは、光り輝く硝子の武器。決して壊れず、どんな荒波も乗り切る強い強い煌めき。
1曲軽く歌うだけで、その場に居た人がわあっと歓声を上げる。
(や、ヤベーーー…!!)
牢屋の中にいても聴こえる程の声量。圧倒的で聴く人の心まで飲み込む歌唱力。
『歌手』という歌を生業にする人間とはこういう人なのか……としみじみ思う。
「あ、アオさん!!今度からは罠踏まない様に案内するっすよ!…その代わりそのー腕を持っ「あーー!じゃあ帰りも危ないッスよね!?」
もはや彼女を取り合ってるし、最終的に彼女が牢屋のクロムに会いたい、と言ったせいで牢屋からの安全な逃避ルートが自然と見えてしまった。
もしや、これは葵が敢えてやったのか?とクロムは近づいてきた彼女を見ながら思考するが、最初にやらかした監視員のミスがそもそもの発端だ。
……とても、そこまで計算して動く様なタイプには見えなかった。
昨日同様、葵がしゃがみこむ。こんにちは、クロム君と声をかけてきた。
「……はい、これ。今日の差し入れですー。
朝ごはんの余りになりますが、縄文鍋です~」
「…おう、ありがとな…!って、そのじょうもん?ってなんだよ?」
警戒心はほぼほぼ解いて聞くクロム。葵がお椀に水筒から注ぐと、ホカホカとした湯気を微かにたてて、具材の入った汁が見える。
「ああ、簡単に言えばイノシシとかキノコを入れてグツグツ煮込んだお鍋…具材たっぷりのスープですね」
「へー!まあとにかく飲んでみるぜ……」ゴクリ、と持ってきた縄文鍋……もといスープをクロムが1口飲む。