第11章 【第3章】気を許してはいけない人
「あのぉ……夜にお部屋に忍びこんだのは謝るので……重いです……」プルプルと小刻みに震えながら、顔をほんのり紅く染めてうるうるとした瞳で訴えかけられる。
小動物系の雰囲気をいつも演技で出しているが…これは演技ではなく、本気で怯えているようだ。
(…………可愛い………って違う!!)
「つっ……ごめん!!」慌てて距離を取ろうとするが、背後がもうベッドの範囲外なのを忘れてた。
ゴツッ、と転げ落ちて、思いっきり身体を床にぶつける。
「……った……」
天井がよく見える。
「あのーー…」
ひょこ。今度は心配そうな顔をした葵が視界を塞いだ。
「……凄い痛そうな音がしましたけど…大丈夫です…??」
「…あはは、まあこれくらいは…いてっ」
「…やっぱり痛いのでは…」
「あはは……」
もうここまで来ると笑うしか無かった。
「ちょっと待っててくださいね~~」ひょいっ、と身軽にベッドから降りると、彼女が腰部分に手を当てる。
「…いっ…!!」
「すみません、今触った辺りが痛いのですね…。
冷やす物でも持ってきます~、少し布団で寝てて下さい」
「あっ、ちょっ…」
監視対象だから君ーーーー!!ひとりで行かないでーーーー!!!!
という声は届かず、またヒュンっと猫の様に身軽にかわされてしまった。
…………。
「もうこれ、今世の飼い主は僕なのかなあ…」
あはは…とため息混じりに呟いた。
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「お待たせしました~」
シャーっとカーテンを開けて葵が現れる。
「あはは…おかえり?」「ただいまなのです~」にこーっと悪びれなく言うと、タライ毎持ってきて入ってくる。
「…えーっと…君女の子だよね?」
「そんなお歳はとっくに過ぎてます」
「いやでも…」
「いいからいいから~」もはや勢いが大阪のオバチャンレベルだ。
僕一応男なんだけど…と思いつつ、普通に服を捲り上げる様に指示され、手当てされている。…しかも割と手際が良いからこれまた驚く。
「…その…××君とかの手当て、してたの?」
「あー…たまにですけど、怪我してたので私がやってましたね~」
「旦那さんだったんだよね?他の男の人にこういうのやっちゃ…」
「……んん~?」
駄目だ、分かってない。この子はハッキリスッパリ言わなきゃ駄目だった。