第11章 【第3章】気を許してはいけない人
「旦那さんは異性でしょ?」「いせい…」
「もっとこう…旦那さんだけ別モノというか、特別扱いは?」「とくべつ…」
????マークが果てしなく浮かんでいる。
……この子、旦那さんの事大事なんだよね…?
「ん~とですね~。××君は確かに大事ですけど~、『異性』とかそう言う枠で見た事はありませんな~。『尊敬出来る人』といいますか」
「えっ」「? 無いですよー。私、大事な人は彼と、リリちゃんだけなので。二人とも尊敬出来る人でした。でも二人とももう居ないし~…」
大事な人、居なくなっちゃいました~、と眉を下げて笑う。
「…………ねえ」「……?はい」くい、と首を傾げる彼女。もうこの際、話の通じない動物だと思って、ちょいちょいと手をこまねく。
……普通に手当てしてたタライを下げてしまうと、トコトコ寄ってきた。オマケにベッドに座る僕が見やすい様に、ちょこんと床に座っている。
完全に猫だ。白い毛並みに蒼い瞳の、猫だ。
「何でしょう?曲のレビューですかね」
「あはは…どうしてそう思ったのかな」
「んー、私の曲の恋愛系の曲、割と低評価の意見が『壮大過ぎてリアリティに欠けてる』らしいんですよねぇ……」
困りました~、と本当に困ってるのか困ってないのか分からないぼんやりした声で呟く葵。
……自分もその手の話はよく分からないが、確かに愛憎とかその手のドロドロしたモノは一切清々しい位にAonnの曲の雰囲気には無い。
「逆に~、他の作詞家作曲家さん提供の曲を歌った時は『こういうドロドロの愛の歌をもっと欲しい』って高評価が付くのですー。それは私自身の歌詞を評価してる人も一緒なんですよね~」
ンンーと悩む葵。
……この子、もしかして。もしかしてだけどーー
「ーー君、心の底から大事で嫌な感情を纏った恋愛感情、持った事が無いんじゃないかな」
ぽろり、と。本音が零れ出た。
「え…………」「あ……いや、君は良くも悪くも割り切り過ぎてるというか…、自分は自分、他人は他人で束縛する気も無いし……。自分しか、信じてない気がして……」
取り繕うようにそこまでつらつらと連ねる。
僕はそこまで呟いてはた、と気付いた。
ーーじゃあ『僕』は?僕は彼女の中でどういう立ち位置なの?僕が目の前から消えたらーー彼女は?
「割り切り……そっか……」ぽつん、と葵が呟く。
