第7章 【第2章】謀略の議会
「私も初めは羽京クンの様な聴力が無いので分かりませんでしたがーー彼から報告を受けて、真相を確かめる為何度か接触を試みました。羽京クンの言う、『不気味の谷』なる音ーー人間が不快に感じる音も聞かせてもらいました。
確かに葵クンは、音を自由自在に操り、演じる事が出来ます。」
「それは…葵が第2の『ゲン』になる可能性もあるということかな」「はい」氷月が頷く。
「仔細は羽京クンから報告をお願いします」氷月がそう言うと、羽京の方をチラリと見やった。
「そうか。報告ありがとう、氷月。
羽京。君から見て、葵はそういう芸当が出来るのかい?君の聴覚で捉えた些細な異変ではあるが、脅威になりうる武器ならば警戒する必要がある。君の判断としてはどうかな?」
ここで自分に話を振るのか。
羽京はギリ、と歯ぎしりをした。もしこれが意見を求める物ならまだしも、「事実」についての確認だからYesかNoしか選択肢が無い。
仮にNoを選んで、氷月の報告は嘘だとした所で、恐らくは氷月は葵に唆されて報告をしている以上、謀る様な真似をしている以上、彼女はやはり危険だと言うことになる。
ーー結局、『彼女は危険』という結論になる。ならばまだ『危険』ではなく『危険である疑い』にするしかない。…彼女を傷つけたくない以上。
だから答えはーー
「……うん、氷月の言う通りだよ。彼に報告した通りーー僕の耳で聴いた限り、葵の発声は異常だよ。3週間監視してきたけど、彼女の発声には全くと言っていい程ブレが無い。ゲンみたいなメンタリストの肩書きも、あからさまな軽薄さも無い。だから警戒されにくいけど、彼女は確かに音を操れるよ」
言うしかない。こう、進言するしかないのだ。
……これが事実である以上。彼女を殺すような事は無いと信じたいがーー
羽京はギュッ、と拳を握りしめた。
「…そうか。他には何かあるかい?演技をして人を騙す様な人間かどうか」
「……そう、だね。彼女が操れるのは、音だけじゃない。表情も」そう言いかけた所で司の異変に気付いた。
司が目の前ーー自分の背後を見据えたまま忽然としている。
氷月もくるり後ろを向いて「何故君が、ここに…」と目を見開いた。滅多に見ない表情だ。
羽京も後ろを向く。
ーーそこには今最もこの話を聞いてはならない人間が居た。