第2章 愛の罠
ハッとしたようにやすさんも「そうだね」と返し、送ってくよとか言われたけど「自分で帰れるので大丈夫です」と断った。
出る直前に聞いたが、この辺りはやすさんの住んでる家に近いらしく、私は奥さんに浮気疑われたらどうする気なんだとか考えたけど、今は夜中だし、やすさんもこの時間は奥さん寝てるんだよねとか言ってた。
私はやすさんに言わなかったが、私の住んでるマンションもここから近い。
最後に「ありがとうございました」なんて言いながらラブホをでたが、いまいちぎこちない感じで別れてしまった。
私たちはきっと最初から最後まで不自然な男女だったであろう。
でもやすさんは身元不明?な私を介抱してくれただけだし、何も悪いことはしていない。現時点では。
恩返しをしたいと連絡先を渡したところで既婚者の男性から、しかも10も離れたこんな女に連絡なんて寄越すはずがないのだ。
何かを期待したところで何も起きないのは自分が一番わかってる。
何故かあの場で二人でいたときは何も思わなかったやすさんの香水の匂いが、強く私に付いて残り香のように彼を想わせる。
心の奥底のどこかで思っていた”抱かれてみたかった”なんて感情はなかったことにして、私は帰路につき、そのまま家について着替えることなく寝落ちてしまった。