第41章 絶対的な『王』の名は
「な、何で…こういうことするの?」
「オマエが…昔からマイキーばかり見てるから」
「え……?」
「……………」
そこまで言うとイヌピーは黙った。イヌピーの行動と言葉に混乱するカノ。
「青宗くん、もう離して。タケミチくん達を追わないと」
「ダメだ、行くな」
「ごめん、聞けない。私達はこんなところで終わる訳にはいかないから」
「行くな…行けばオマエまで…」
「?」
「……………」
イヌピーは言いづらそうに口ごもる。その代わり、握られた手にギュッと控えめに力が込められた。
「ねぇ青宗くん」
イヌピーがこちらを向く。
「貴方は今、幸せ?」
「!」
「笑いたい時にちゃんと笑えてる?」
「…何が言いたいんだ?」
「今の青宗くん、ちっとも笑わないから、この世界で幸せに過ごせてないんだと思って」
イヌピーは驚いた顔で目を見開いた。
「一くんも同じ。揶揄うようには笑うけど、本当の笑顔とは違う。二人とも、昔の方がもっとちゃんと笑えてたよ」
「…そう言うオマエは、今幸せなのか?」
「この息苦しい世界で幸せに生きる為に、ちゃんと笑えるように、今頑張ってるの」
「(幸せに生きる為に…)」
「だからこんな所では終われない。終わらせたらいけないの。私達のゴールはまだずっと先だから」
「……………」
イヌピーは顔を伏せ、黙り込む。そして握っている手を名残惜しそうに離す。
「死にてぇなら行け」
「うん、ありがとう」
ニコッと微笑み、タケミチ達の後を追い掛けるカノの後ろ姿を見つめながら、イヌピーは憂いを帯びた表情を浮かべる。
「…礼なんて言ってんじゃねぇよ、馬鹿。」
スマホを取り出し、ココに電話を掛けた。
「悪い、逃がした。…あぁ、追いつかなかった。………、そうだな…美人になってたな。まさかアイツまでいるとは思わなかったよ」
イヌピーは切なげにふと小さく笑った。
「…あぁ、酷い事言ったな。でもそう言うしかなかった。…分かってる、次は捕まえる」
ピッと通話を切った後、イヌピーは踵を翻し、ココの所に戻って行った。
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