第41章 絶対的な『王』の名は
「…………」
走ったせいで心臓が急速にドクンドクンと鼓動を鳴らしている。それを落ち着かせる為に深く深呼吸をしてから、イヌピーに向き直った。
「離して」
「オマエを連れて行く」
「しつこいよ。私は君達の仲間にはならないし、黒川イザナのモノにもならない。何より、一くんの言葉が許せないから彼には会いたくない」
「ココは本気であんなこと言ったんじゃねぇ。オマエが"そっち側"にいるのが気に食わなかっただけだ」
「…意味わかんない」
「もうこの件には関わんな」
「それは無理だよ」
「死ぬかも知れねぇんだぞ」
その言葉を聞き、疑問符を浮かべた。でも敵なのにも関わらず、自分の心配をしてくれるイヌピーの優しさにカノは笑う。
「青宗くんは意地悪だけど優しいね」
「は?」
「敵なのに私の身の心配をしてくれる」
「これは心配で言ってんじゃねぇ。警告だ。もう黒川イザナを嗅ぎ回るな。まだ生きていたきゃ言う事を聞け」
「…逆らったらどうなるの?」
「オマエを殺す」
イヌピーは冷たい目でカノに言う。
「じゃあ殺していいよ」
「!」
「本当に殺す気があるなら」
「どういう意味だ…」
「だって青宗くん、私に対して全然殺気がないんだもの。本気で殺すつもりなら最初に腕を掴んだ時点でとっとと殺せばいいのに」
「……………」
「どうしてそうしないの?」
「…うるさい」
「!」
静かな声で呟いたイヌピーはどこか苛立っているようにも思えた。
「青宗くん…?」
「……………」
名前を呼ぶとイヌピーがじっと見下ろしてくる。不思議そうな顔をしていれば、顎を掬うように持ち上げられ、ゆっくりと顔が近付き───……
「や……っ!」
キスしようとしているのが分かり、咄嗟に顔を背け、イヌピーの胸を両手で押し返す。
「キス、しない、で…」
マイキー以外と唇を重ねたくないカノは悲しげに瞳を揺らす。
「……………」
胸を押し返そうとする片手をギュッと握り締め、イヌピーは目を瞑って、前髪越しに軽くおでこにキスを落とした。
カノは驚いてイヌピーを見上げる。
.