第4章 抱擁
「遺言かなんか知らねーけど、んなもん、はなっから守る気なんかねーんだよ。そんなんで俺の人生、勝手に決めてくるとかおかしいだろ」
「でも歴代続いていて、悟くんもそれで術式遺伝してて、きっとその婚約者さんが悟くんにも五条家にもふさわしい人なんだと思うよ」
「ふさわしいって何? どんな女? 分家の中の誰か? 御三家の女?」
「それは、わかんないけど」
「はっ、そいつらが俺に何してくれんの? どんだけ偉そうな事言ったって所詮、見かけや地位、カネだけなんだよ。誰かさんみたいに身の危険も考えずに俺を守ったり、怪我ひとつしねえ俺の命を本気で心配してる女なんてひとりもいねーんだよ」
え、それって……。
ヒュッと息を吸い込んだまま呼吸が止まる。
「ひとつ聞くけど」
「なに」
「夕凪ってさ――俺のためだったら死ぬだろ」
「うん」
「死なせねーけど」
ダメだ。胸が苦しい。なにこれ? 何を聞かされたの?
心臓が早鐘みたいにドクドクドクドク波打って、今にもこのお着物から飛び出しそう。それって、悟くんの心の中に、お相手の候補の中にあたしがいるって事なの?
「当主になるのは俺だよ。最強呪術師になったら誰一人文句なんか言わせねー。術式遺伝なんて所詮、確率の問題。俺は好きにやらせてもらう」