第4章 抱擁
「好きじゃありませんけど」
「嘘つきなさいよ! 今日のあの玄関での立ち位置は何? 悟の横に妻みたいな顔で立っちゃって」
「それは奥様が――」
「言い訳なんていらない。たいして可愛くもないくせにめかした格好して次期当主を誘惑するとかビッチなんでしょ、どうせ」
楓様は言い終えてから下品な発言をしてしまったと言わんばかりに口を手で覆って、ん、んんと咳払いをした。
「とにかく、婚約者は本家のご先祖様が決めているの。ひょっとしたら、はとこから選べ、なんて遺言に書かれてたりして? まぁ悟は年下だけどイケメンだし本家ならわたくしは嫁いでさしあげますわ。でも、あなたには、そんな話が来ることは天地がひっくり返ってもないんだから、しっかりそこのとこ肝に銘じておきなさいよ」
「はい、もちろんです」
あたしは無抵抗に返事する。そんな態度に満足したのかつまらなくなったのか、楓様は去っていかれた。
ひどく疲れた。はやく離れで休みたい。楓様が仰るような事は言われなくても、もうずっと前から心得ていることで。あたしには悟くんの事を好きになるなんて選択肢はない。ティーンズラブと現実は違う。