第4章 抱擁
「夕凪、顔色悪いよ、もう今日は離れでお休み」
厨房にいたお母様が眉を寄せてあたしを覗き込んでくる。これ以上、厨房にいても恐らく邪魔になるだけだ。実際気分は優れず体が重たい。この素敵なお着物はまだ着ていたかったけれど、あたしは離れに向かう事にした。
本屋敷の回廊を渡り、離れに向かって歩いていた時だ。
「ちょっといい?」
すれ違い様に声をかけられる。確か、この方は……悟くんの、はとこの楓様だ。ちょうど成人されたところだと聞いている。
「なんでしょう? 楓様」
「気安く名前呼ばないでくださる?」
あたしは、軽く着物の袖をひっぱられ、回廊の隅に寄せられた。
「あなた、悟のこと好きでしょ?」
「え?」
「ちょっと本家に気に入られてるからって調子に乗らないで。分家はみんなあなたの事大っ嫌いですから。ただ飯食べて色目使う小娘だって言われてるのよ」
中学校でも悟くんのファンから「好きなの?」と何度か尋ねられたが、それとはまるで別格の呪いに近いうめき。桁違いの醜悪な敵意をむき出しにしてくる。