第4章 抱擁
「再来年、悟が18歳の誕生日を迎えたら本人に祖父の遺言書を開示する。それに従って婚約者を制定する」
……。
遺言書によって、婚約者を制定する――。
当主の声が頭の中で何度も繰り返される。こんな日がいつか来ることはわかっていたけど、いざ、こうやって耳にすると、心がぎゅっと苦しくなってよくわからない気持ちになる。
手にしているお盆が震えて、グラスがカタカタ鳴り出した。いけない、早くここを出なきゃ。
出ようと思ったけれど後方にいる悟くんの様子が気になる。今、悟くんはこの話を聞いてどんな顔をしてるんだろう? 見たいけど怖くて見れない。後ろを振り返れない。
婚約者、婚約者。
変だ。目の奥からじわりと何かこみあげてくる。このままじゃ、このこみあげてくるものが溢れてしまう。
歩かなきゃ、早くこの部屋から出なきゃ! そう思うんだけど、固まって足が動かない。