第4章 抱擁
お盆の来客の迎え方はこうだ。
分家の方が門をくぐると、五条の本家の人間がその正面で迎え入れ、向かって左側に使用人達が横並びでお迎えする。そのまま客間に誘導する流れとなっている。
あたしはいつもその横並びの最後から3番目くらいに立ってお迎えする。召し物が一流だからおかしな感じがするんだけど、なるべく目立たないように静かに存在感を出さないようにそっと会釈でお客様をお通しする。
奥様があたしの手を引き、急ぎ足で玄関に向かったから、なんとか時間に間に合った。あたしは奥様から離れ、奥の使用人の列の最後に着こうとする。すると奥様が今離したばかりの手を再度、掴まれた。
「時間がないから、なぎちゃんはここに立って」
「はい?」
立たされたのは悟くんの横……。
当主、奥様、悟くん、そしてあたし。
ちょっと待って、どう考えてもこの位置はおかしい。左を見ると、悟くんが立っている。
凛々しい和装姿。色紋付の紺色の着物と羽織に、銀糸で白鶴が刺繍された白袴。彼の白髪に似合ってる。あたしのかんざしの白鶴とお揃いに見えないこともない……。
さっき、あたしが準備した角帯できゅっと腰を絞めていて、足が長く見える。というか悟くんは実際足が長い。
また背が高くなったみたいだ。見上げるとサングラスを外した青く煌めいた眼があたしの深碧の眼に重なった。
何も言わずにこちらを見ているけど、いったいなんなの? そんなにじろじろ見ないでよ。どうせ変な顔なんでしょ? またチビになったな、とか思ってるんでしょ?
薄化粧してもらって、なんだかすごく恥ずかしいし、この立ってる場所がおかしいのもわかってる。
いつもこういう行事の時は遠くで見てるだけの悟くん。こんなに近くにいることだけでも緊張が走る。実はあたしは悟くんの和装が好きだ。
――ドキドキしてるあたしにどうか気付かないで。
この緊張を誤魔化すために何か悟くんと話したかったけど、もう玄関のすぐ近くまでお客様がいらしていて、無駄口たたける雰囲気じゃない。そのままあたしは悟くんの横に並んで、お客様を迎え入れ、厳かに会釈を繰り返した。