第4章 抱擁
今日は夜、五条の分家の方々が来るのだ。悟くんから見たら叔父さまとか叔母さまとか従兄弟とかそういった方々。一斉に集ってお盆を迎えその後食事会が開かれる。
使用人の母をはじめ、五条家に仕える従事者たちは五条家の家紋のついた藤紫の羽織を纏って訪問者達を出迎える。
あたしはというと、お手伝いする事はあってもまだ使用人として働いているわけではない。将来は呪術師やOLの道だって残されている。立場としては中途半端な立ち位置だ。その配慮もあったのか、いつも分家の方々が集まるような行事の時は五条の奥様がお着物を貸してくださった。
なんていうか、本家と変わらないような綺麗な格好。いいのかな? と毎回気後れするが奥様は全く気になさらない。
自分でいうのもなんだけど、奥様、つまり悟くんのお母様は「なぎちゃん、なぎちゃん」と言って小さい頃からあたしの事を可愛がってくださった。
あたしはお母様から自分の立場を弁えなさいと何度も注意を受けたので、特段それに甘えて失礼な態度をとったり、懐くような姿勢を見せたりはしなかったけど、奥様の事は大好きだった。
「悟、困らせてるでしょ? ごめんね」なんておっしゃってくださって、悟くんの性格は当主似なんだろうか?
ちらっとそんな話をすると、奥様はそれはもうお綺麗なピンクの牡丹のようなお顔でお笑いになられて、「なぎちゃん、ご名答」と仰った。
本当に素敵な奥様だ。どうやって当主と出会われたのだろう? 無下限使いの六眼が生まれたって事は、五条の術式が遺伝で受け継がれてるってことだ。やはり、遺言に従って、どこぞの家系から嫁いで来られたのだろうか?
知りたかったけど、そんな事を聞いたら間違いなくお母様に一晩中、いや三日三晩叱られる。それに、そこまで空気が読めないほどあたしは子供ではない。誰もそういう話を五条家ではしないのだ。いまだに謎の多い五条家の婚姻。悟くんの婚約事情。
そして、この後、それを夜の食事会で耳にすることになる。