第10章 別れ
特級呪術師。現存する呪術師の中で最強。
こうなった今、僕が五条家を好きに動かせると言ってもいい。夕凪は大きく構えていればいい。
遺言開示の時刻が刻々と迫る。五条の屋敷の一室に本家の人間が集められている。隠居生活をしている僕の祖父母、両親、そして僕。
当主も先代も遺言に従って婚約の儀を行い、その後婚姻して当主の座を引き継いでいる。遺言書の支持者だ。
隣室には分家の人間が10名ほど集まっている。分家には遺言の詳細は明かされないが、立会人として、僕が遺言の書に間違いなく署名するか、同意するかを見届ける役割らしい。
もし僕が遺言に背く姿勢を見せた場合は、全員でもって説得にかかるか力づくで、ってとこだろう。呪具を持ってきてる奴もいる。
何人でかかってこようと、今の僕に敵う奴はいない。それは全員がわかっているはず。なるべくなら僕も手荒な真似はしたくないけど、五条の家が強行するならやらざるを得ない。
何はともあれ、まずは敵が見えねぇとな。当主の遺言の開示を待つ。予定の時刻ぴったりに行うみたいだ。全員揃ってんだから少しくらい早めたっていいんじゃねーかと思うけど。待ち疲れと準備運動も兼ねて軽く背伸びをした。
「今から次期当主に遺言の開示を行う」
時針、分針、秒針が全て12の上に重なると、当主の一声が放たれ、長老が巻物を黒盆の上に乗せて運んできた。僕の目の前に巻物が置かれる。
「遺言書 X代当主 五条xxx」
――これが遺言書か。巻物に記された曽祖父の名を確認する。菱の白地に五条家の家紋の梅の模様。長老から手渡されゆっくりと遺言書の紐を解く。
巻物は思ったよりボリュームがあって、遺言の内容は多岐にわたっているようだ。保管場所の湿度が高かったのか少し和紙が湿りを帯びていて滑りがわりぃ。
ところどころ軸の動きも悪い。夕凪が一番気にしているであろう婚約者に関する遺言……僕はまずその箇所に目を通した。