第10章 別れ
部屋の中はガランとしていて静かだ。まさに空室。外の女性達のざわめきなんて、まるで嘘のよう。
「夕凪、なんか痩せた?」
久しぶりに悟くんと話す気がする。顔を合わせる事が少なかったし、合わせても話す事がなかった。
「ダイエット中なの。成功してるならよかった」
「……なぁ、夕凪」
「悟くん戻って、皆さんお待ちかねだから」
そんな顔して見つめられたら涙が出そうになる。まだこの人が好きなんだって、実感してしまう。足早に部屋の入口へと向かう。
「もう一回だけ、僕と話しない? 婚約のこと」
悟くんの声はもちろん聞こえてるけど、一歩前に進んでドアノブに手をかける。
「まだ夕凪の事が好きなんだけど」
後ろから聞こえたその声に、ドアノブの手が固まった。目の縁にたまっていた涙が一筋だけ頬を伝う。
目をぎゅっと瞑ってそれ以上流れてこないのを確認して悟くんの方を振り返る。
「わかった。今晩、お屋敷に戻ったら。あたしも……悟くんに相談したい事ある」
軽く笑顔を向け、あたしはその部屋を出た。
菓子折りを運ぶのに何回か階段を往復するとまた吐き気を催した。
う……
気持ち悪くて、もう一度、お手洗いに向かう。やっぱり五条のお屋敷に戻ろう、これ以上ここにいても役に立たない、そう思い洋館の入口に向かったけど、花が飾られているアーチの所で、あまりの気分の悪さに座り込んでしまった。
う……うっ。