第10章 別れ
少し水でも飲もうと洋館のキッチンへと向かう。途中、さっきの女性2人組と思われる方達に出くわした。あの香水の香りだ。よく見ると胸と背中がしっかり開いたドレスを着ている。
「五条様、ちょっとよろしいですか?」
悟くんに話しかけたみたいだ。既にたくさんの女性たちに囲まれている中、強引に前に出るのがすごい。
「綾乃です」胸についた名札を……というより名札がついた胸を見せて悟くんに寄って行く。
「五条様、私、女子大行ってるんですぅ。今度遊びに来ませんか?」
その場から去ろうとしたけど、気になってつい術式で声を拾ってしまう。
「女子大? 遊びたい放題してんだろーな」
「私はお稽古事が忙しくて遊んでないですけど、祓ってばかりじゃ疲れちゃいません? たまには羽を伸ばすのもいいですよ」
「まぁね」
「お料理得意なんです! 五条様に作ってさしあげたい」
「じゃ持ってくれば?」
「いいんですかー?」
もういい、こんなやり取り、聞きたくもない。キッチンにたどり着き、お水をもらう。
そこにいた使用人の方に大丈夫って声をかけられたけど、そんなに気分悪そうに見えるかな。体調が悪そうに見えるのは困る。
確かにここ1週間で2キロほど体重が落ちている。やつれてるように見えるかもしれない。
「夕凪、ちょっと手伝ってもらえる?」
上女中さんに声をかけられた。
「菓子折り、これお土産なんだけど控え室の隣に空室があるからそこに運ぶのを夕凪に任せていい?」
「はい」
菓子折りが入った紙袋を両手に持ち、気を取り直して洋館の2階に上がる。螺旋状の階段を上るだけで気分が悪くなってくる。上まで上り切ると、すっと、両手が軽くなった。紙袋を取られた。
「これ、どこに運ぶの?」
「っ! さと……五条さん、大丈夫です。あたし運びますから」
「つき当たりの部屋?」
「困ります。あたしが運びます」
「携帯取りに来たついで」
ついででも、こんな仕事を本日の主役がするべきじゃない。一歩が大きくて追いつかないから軽く小走りして悟くんを追いかける。
誰かに見られたら大変だ。けど、いくら言っても聞かなくて結局、目的の部屋まで紙袋を運ばれてしまった。