第10章 別れ
悟くんは見当たらないけど婚約者の候補の人たちはかなり集まっている。ざっと20名くらい? そんなに適齢の女性がいたんだと驚く。みんな目を輝かせてる。それはそうだ。
次期当主はどうしたんだろう。しばらくすると白いらせん状の階段の上から降りてきた。黒のスーツに光沢のあるグレーのシャツ。
今日はサングラスも外している。控え目にいっても国宝レベルのかっこよさ。王子様が来たって思うよね。きらっきらって感じ。
悟くんは、なぜかあまり乗り気じゃない顔してるけど、こういう表情も女性たちは案外好きかもしれない。悟くんと目が合うのが怖くてあたしはその場から去った。
鉄板で焼かれていたビーフステーキの匂いなのか、それとも風に乗ってやってきたコンソメスープの匂いなのかわからないけど、胸焼けみたいな嫌な感じがした。
吐きそうになってお手洗いに向かう。個室に入ってしばらく座っていると楽になった。何人かの女性たちが化粧直しに来たようだ。香水を振っているのかその香りでまた気持ち悪さが増す。
「五条様見た? イケメンっぷりすっごいヤバかった。呪術界最強であのルックスはもう反則」
「見た見た。御三家に交じれるならブタみたいな奴でも最高なのに、あれはヤバい」
会話の感じからしてこの2人は知り合いなんだろう。名家に名を連ねていても曽祖父様の時とは時代が異なる。
呪術界との関わりもさほどではなく、補助監督をやっているような家系が多い。お嬢様たちも術式は持っていたとしても高専には行かず、非術師と同じ女子大に通ったりしてる。
「五条様みたいなの大学にいても出会えなーい! 私、本気で落としにいこうかな」
「え? 彼氏どうするの?」
「別れるに決まってるでしょ。イケメン玉の輿と婚約だよ! やっぱり、落とすなら色仕掛けかな?」
「それなら私も自信ある。ねぇ、五条様ってあっちの方もすごそうだよね。夜の方」
「ふふ、絶対すごいよデカそうじゃん。ワンナイトでもいっか?」
……。
彼女たちが立ち去った後、個室から出たけど、まだ香水の香りが蔓延している。あたしは洗面周りに落ちている髪の毛や水しぶきを拭き取って、お手洗いから出た。ひたすら気分が悪い。