第10章 別れ
それから五条家はにわかに婚約に向けて動き出したようだ。3月の桃の節句に悟くんの婚約者候補となる方達を一斉にお招きするらしい。
御三家の分家には適当なお相手がいなかったのか、遺言のIIが適用されるようだ。パーティー会場として洋館を貸し切るとのこと。
あたしは悟くんや当主に、きっぱり別れると宣言したけれど、頭で考えている理想に心が従ってくれなくて、なかなか思いを吹っ切ることが出来ずにいた。重ねてこのところ体調が優れない。高専の方も休みをとって五条家で静養していた。
こんな時に体を悪くするなんて嫌がらせみたいで申し訳ない。そう思って、調子がいい時はなるべく起きていようとするんだけど、よほど悟くんとの別れがダメージだったのか、何も食べたくなかったりする。
五条家はとにかくその婚約者候補パーティーの準備でバタバタしていた。当日は洋装で立食形式。
見るに耐えないと今は思ってしまうけど、側にいるっていった以上、慣れないといけないと思う。あたしはただ空気みたいに存在を無にして見守りたい。ただそれだけ。
婚約者の候補が集まる五条家のパーティーの当日。あたしもそのお手伝いをしに会場に向かう。お屋敷とはそれほど距離が離れていない。
あたしは使用人ではないけれど、五条家の使用人達は今日は大忙しだ。こんな日に何もせずぼーっとなんて出来ない。次期当主の婚約者候補が集まる大事なパーティー。
別れを告げてから1ヶ月近く経った今も、悟くんの事を思う気持ちは変わっていなくて、このパーティを直視するのが辛くないわけではない。
気が重くて何も食べたくない。気持ち悪くて水分しか喉に通らない。吐きたくなる。だけど会場には出向いた。
こんな調子だから、あたしに何か役割を与えられたわけではないけれど、会場内の案内や、整備、料理のお皿の片付けなどを手伝う。
ガーデンウェディングなんかにも使えそうな洋館だ。白いらせん状の階段が美しい。たくさんの食べ物がホールやお庭に並んでいる。料理人たちが腕をふるったんだろう。
五条家に従事している使用人は洋装の制服を着用していたので、あたしもそれを借りて会場に入った。