第10章 別れ
当主は最後まで何度もそれでいいのか、と尋ねてきた。とても残念そうな顔をしてらっしゃるのが不思議だけど、それもあたしへの最後のせめてもの優しさなのかもしれない。
和室を出ると、そこにまだ悟くんは立っていた。当主との話は聞こえていただろう。
『なぁ、もう僕のことは好きじゃないの?』
「……うん……ごめん」
言った瞬間から涙があふれて早々と悟くんから離れた。こんな顔は絶対に見せちゃいけない。今、悟くんの顔を見たら、少しでも振り返ったら別れられない。決意が揺らいでしまう。
五条家の将来のため、絶え間ない術式相伝のため、そしてあたしには内緒で遺言に同意していた悟くんのためにふんばらなきゃいけない。
涙をこらえて歯をくいしばって。小さい頃からやってきた。ひとりでも出来るはず。悟くんがいなくても。
あたしは離れまで全力で走った。その日も次の日も誰にも会いたくなくて、離れにこもった。何も食べる気がしない。
ひとりでずっと泣いて泣いて、それでも涙が止まらなくて。やっと涙が落ち着いたかと思ったら、勝手に浮かんでくる悟くんとの思い出にまた涙が止まらなくなる。
夜も眠れず、枕カバーはびしょびしょに濡れて、朝になると顔が腫れてとんでもない状態になっていた。