第10章 別れ
悟くんはそれからもしばらく高専の寮に戻らなかった。あたしも戻ってこなくていいと学校から言われ、気まずかったけれど五条家に留まる。しとしとと珍しく雨が降っている。
離れにいても悟くんとの思い出ばかりがフラッシュバックして辛くて、本屋敷の方に出向いてみる。縁側に来て、ふとそこで足を止めて座った。
小さい頃、軒先から垂れてくる雨の雫をここから見てるのが好きだった。ぼーっと縁側に座ってそれを見てると、隣に彼が近付いて来て座る。見なくても雰囲気や、背丈、呪力、それらで悟くんだとわかってしまう。
「なぁ」
「ん?」
「僕は夕凪の変化に気付いてなかった。親友アイツん時みたいに。夕凪に何があったの?」
「あたしは、夏油先輩とは違うよ。これからも悟くんの側にいる。離れないって約束したし」
「全然、意味がわかんねぇ、それって好きって事なんじゃねーの?」
もう話はついているはずなのに、なんでまたこんな事を聞いてくるんだろう。変化したのはあたしじゃなく、悟くんの方だよね?
「言ったでしょ、原点に戻ったんだって。もういいから混乱させないで。悟くんは遺言に従うんでしょ?」
「だったら何? だから僕は――」
「だったらもうあたしは、ただの使用人の娘に戻して。悟くんはきっと、あたしが自分のものじゃなくなるのが嫌なだけなんだよ。別れても側において、誰のものにもしたくない、それだけなんだよ」
「あぁ、そうだよ、誰にも渡したくねーよ」
「わがまますぎるよ、ずるいよ。あたしに、好きって事なんじゃねーのって言うけど、悟くんだって好きなんて言わなかったじゃん。見えるところにいて、側で俺のこと見ててって言っただけ。ちゃんとそれは守るんだからいいでしょ」
「僕にはただの屁理屈にしか聞こえねぇんだけど」
「あたしも、悟くんの言ってる事が全然わからない」
自分でも何を言ってるのか意味不明になってきた。本当はまだ悟くんの事が好きだ。
でも、悟くんが遺言を守るって決断していたから、その思いを尊重したいから、五条家の優しさを汲み取ったからあたしは別れるって言ったの。こんな風にまだあたしの心を揺さぶる理由はなに? まさか体の繋がりが欲しいとか?