第10章 別れ
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冬のしんとした空気が五条家に漂う。暦が2月になってすぐに当主からあたしに呼び出しがかかった。
悟くんが話していた例の話だ。とうとう来た。即座に当主の待つ和室へと赴く。部屋に入るとそこに悟くんもいて、目が合う。
あの話し声を拾ってしまった後も悟くんとは普通に接した。残りの時間を彼女として過ごしたかった。三人そろうと襖が閉められ、重々しい雰囲気になる。当主の正面に移動し、正座した。
「夕凪」
「はい」
当主の呼びかけに返答する。この場において悟くんは何も出来ないって言っていた。あたしが当主にしっかり思いを伝えないといけない。
「単刀直入に聞く。悟と今、交際していると聞いているがそれは事実か?」
「はい、お付き合いしております」
「悟のことをどう思っている?」
「大切な人だと思っています」
「それはつまり、愛しているということでいいんだな?」
「……いいえ、今は愛していません」
「どういう意味だ?」
「あたしは……悟さんと別れようと思っています。もともと期間限定の恋だと思っていました」
『は? 夕凪、オマエ、なに言ってるかわかってんの?』
「悟は黙っていなさい」
『こんなおかしい話あるかよ、夕凪!』
「当主、悟さん、今までありがとうございました。私は五条家が大好きで、とても幸せな時間を過ごしました。遺言書に従って婚約の儀を進めてください」
「もう一度聞くが、悟の事は愛していないのか? 夕凪は別れたいのか?」
『ちょっといい? 夕凪と話し合ってきていい?』
「悟、わかってるだろうな、遺言書のこと」
『あぁわかってるよ。夕凪こっち』
悟くんに呼ばれて和室を出る。そのまま廊下で悟くんと向き合う。