第10章 別れ
「夕凪、あなたはどうしたいの?」
お母様が重い口を開く。この質問をお母様からされるのは二度目だ。前に聞かれた時は高専に行こうと決意した時。
――あたしはどうしたいんだろう?
お母様に尋ねられて、少しずつ混沌としていた心の中が見え始める。これまでの悟くんとの時間を思い出して気持ちに整理がつき始める。
「あたしは、あたしは……悟くんの側にいたい。ずっと見てるって約束したから」
思い出していた。悟くんとの恋の始まりを。あたしが恋に落ちたのは、悟くんの事を好きだという感情を持ったのは、あのお盆の夜だ。抱きしめあった日。
あの時、悟くんは、遺言なんか関係ないって言って、あたしはそんな悟くんと、ずっと一緒に歩んで行けるんじゃないかなんて、淡い期待を抱いていた。
けど、それが現実にならなかったからって、あの時の誓いが無効になったわけじゃない。あたしは今もあの時の悟くんの言葉を大切にしている。何があっても側にいるって誓った悟くんとの原点。
――オマエはずっと俺の見えるところにいて。ずっと側で俺のこと見ててよ
別に何者にもならなくていい、ただの使用人の娘でいい。今はまだ好きって感情があるけど、きっとそれもいつか薄れて、悟くんが五条家を創っていくのを側で見ていることができる。
あたしはいっぱい悟くんから愛を貰って、思い出を貰って、後悔のない時間を過ごした。お盆の日のあの夜と今とは違う。あたしも、大人になっていかなきゃいけないんだ。
「お母様ありがとう。あたしは五条家にいる。悟くんが、五条家が許してくれるなら、ただの使用人の娘としてこれからも側にいる。それで後悔しない」
涙がまだ止まらない中、あたしは生き方を決めた。