第10章 別れ
心の中が限界に達して思わずお母様に話してしまった。お母様はあまりの驚きからか、目が飛び出しそうになっている。
そりゃそうだ。あたしだって、もしお母様の立場なら、同じ反応をする。それほどまでに遺言書はあたし達とは縁遠いものなのだ。それを見てしまった経緯をお母様に説明する。
「夕凪、そのことは誰にも話してない? 五条家の遺言は、当主、奥様、坊ちゃま、当主のご両親、遺言を管理する側近、ほんとに一部の人間しか見ることができないの。原則本家のみ」
「知ってるよもちろん。悟くんも内容は明かせないって言ってた。だからお母様にしかこんな話、出来なくて」
今度はお母様が黙り込んだ。こんな秘密を知ってしまって戸惑っているんだろう。申し訳ないと思いながらもあたしは話を続ける。
「あたしは、悟くんの婚約者じゃなかった。そして、悟くんはその遺言に同意してるの、従うつもりなの。これも術式で聞いてしまった。あたしはね、鈍くて気付かなかったんだ。別れのための1年だったって事に」
「夕凪……」
ふたりして黙り込む。何も言葉が出てこない。あたしは俯いてひとしきり涙を溢れさせた。