第10章 別れ
「夕凪を高専に送り出した時はね、ひょっとしたら何か起きるかもしれないって思ったの。お父様が言っていたように夕凪が幸せになれるような気がしたの。でも、そういう顔してるって事は、違うってことなんでしょ」
「……何ひとつ後悔はしてないんだ。高専に行かせてくれた事も感謝してる。ただ、どうしていいのかわからなくなっただけ。何も信じれなくなっただけ」
駄目だ、こうやってお母様と話していると、ありのままの自分が出て来てしまう。悲しみと共に涙がぽろぽろと出てきてしまう。
「お母様、あたしね、とんだ大馬鹿者だと思うんだけど、遺言に書かれている悟くんの婚約者はあたしじゃないか、なんて思ってたの」
「婚約者の事は本家しか知らないでしょ。夕凪は何か聞いてるの?」
頭を左右に振る。その度に涙がこぼれて袖ですっと拭う。しばらく何も話せなくなった。
遺言を見てしまった事はあたしだけの秘密だ。誰にも知られちゃいけない。お母様が背中を優しくさすってくれるから、ますますこの事実に耐えられなくて辛くなってきてしまう。
「坊っちゃまは、夕凪の事を愛してるんじゃないの? 遺言の婚約者かどうかは別として、今は信じてみていいんじゃないの? お着物も夕凪と色合わせして作られたんでしょ?」
「う、ん、だからあたしとんだ勘違いしてしまって、どんどん欲深くなっちゃって。お母様、あたし、あたしね……見てしまったの」
「見てしまったって、何を?」
「遺言書。悟くんの婚約者のことについて書かれてた」
「へっ!?」