第10章 別れ
「少し肩もんでくれない? いつもの術式で。ほら、じわーと遠赤みたいにあったかくなるやつ」
「え、まだ今からお酒のおつまみを作るんでしょ?」
「お母様は少しおさぼり」
「大丈夫なの、そんなことして」
「五条家に来て10年以上よ。他の方にお願い出来るくらいには偉くなったの。ほら早く肩、お願い」
お母様に背中を押されて離れまで一緒に歩いた。離れの近くまで来て、誰も見ていないだろうなぁって思ったところで、あたしはお母様の後ろに回って背中に抱きつく。ぎゅーって5秒間だけ。
子供の頃、十分に甘えられなかったのかな? まだあたしの中にも幼稚な部分が残っている。
離れに入って呪力で熱を作り、お母様の肩を温めると気持ちいいって言う。嬉しそうなお母様を見るとあたしも嬉しくなる。
高専に行ってからもお母様には時々メールしたり電話したり、五条家に帰省した時は話をしたけど、悟くんとの恋の話は一切しなかった。
お母様も特に詮索はしてこなかった。ハワイに行ったりあんなお着物をいただいたときは、さすがに驚愕して、交際してる事に気づいたとは思うけど。
「お母様と一緒に五条家を出る?」
「え?」
突然の言葉にあたしは危うく、呪力操作を誤ってお母様を火傷させるところだった。
「夕凪が辛いならそうする。もう生活の蓄えは十分あるし、2人でも暮らしていける」
なんの話? って誤魔化したけど、悟くんの婚約の儀が来年に迫っている事はお母様も知っている。何かあったんだと察したようだった。