第10章 別れ
あたしは、悟くんに勝手に期待してた。あんな遺言書を見た後でも彼を信じてた。きっと、遺言なんて関係ねぇって言って
「夕凪は唯一無二の存在だから。オマエとこれからの未来を作っていく、新しい五条家を作っていく」
そんな感じのことを言ってくれるんじゃないかと自惚れてた。
「僕を信じて」って言ってたけどもう無理だ。あたしがこの目で見た遺言書、今、この耳で聞いた悟くんと当主の会話を知ってしまって、どうやって信じろっていうの。
遺言書を見た時のショックよりも、今の方が遥かにダメージが大きい。
あたしが好きだから婚約なんかするかよ、って教室で言ったじゃん。何度も婚約者の事を聞いたのに、夕凪はそのままでいいって、変わらずあたしと付き合っていたよね。
あの優しいキスは、これからも続く幸せを暗示してたんじゃないの? この1年、悟くんは、ずっと、ずっとあたしと別れる準備をしていたの?
オマエは急に離れていったりしないよな、ってあたしを抱きしめていたのに、まさか悟くんから離れていくなんて……。